【認定こども園移行】私立幼稚園が認定こども園へ移行する際の6つの問題
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子ども・子育て支援新制度が施行されてから9年目に突入しました。
令和3年4月時点では8,585施設と公式発表がありました。
令和4年4月1日時点では9,220施設であったため、
この1年でも635施設が認定こども園に移行したということになります。
つまり、本コラムをご覧いただいている皆様の地域でも、
認定こども園の存在がますます大きくなっていることは間違いありません。
もし、いま認定こども園への移行を準備されている、もしくは検討されている方は、
本コラムを参考に綿密な準備を進めていただければ幸いです。
認定こども園移行は、しっかりと計画をして頂ければ
大きなトラブルなく認定こども園へ移行できる可能性が高まります。
ただ、十分に計画を練らずに移行準備を進めると、次からお伝えしていく
私立幼稚園が認定こども園へ移行する際には6つの問題が発生します。
この問題について本コラムでは解説します。
移行したのに園児募集がうまくいかない・・
一つ目は、定員設定をおろそかにした園が陥りやすい問題です。
認定こども園への移行を検討するときに最も大切な点は、認定こども園移行後の利用定員の設定です。利用定員が適切に設定されていない場合、定員充足率が低くなり認定こども園経営が厳しいものになります。そのため利用定員を設定する際は本来であれば、地域の人口動態や保育所利用率などの外部環境や、
預かり保育の利用状況などの内部環境を整理した上で、定員設定をするべきです。
ただ、「今までの幼稚園の定員が○名だからそのままの定員で申請した」という園も少なくありません。
例えば、預かり保育の利用園児が多い園の場合は、2号認定の利用定員を多く設定する必要がありますし、預かり保育の利用がそこまで多くない園の場合は、2号認定の設定が多すぎると定員割れ(=収入の減少)が起きてしまいます。
そしてこの定員設定によって、施設型給付額(以下、補助金額)は大きな影響を受けます。
補助金の構造上、定員設定が多ければ多い程、園児一人当たりの補助金額の単価が低くなります。
そのため、実態に見合わない形で、定員を多く設定してしまうと、
収入面において園運営に大きな影響を与えることになります。
その事態を避けるためにも、内閣府が公表している「公定価格試算ソフト」を活用しながら、
10ヵ年ベースでの収支シミュレーションを実施し、地域の実態に合わせた最適な定員設定を実現してください。
施設整備の結果、開園後の資金繰りが厳しい・・・
幼稚園からの認定こども園移行の場合保育園機能を付加する必要があります。
保育機能を付加しない場合においても、園舎老朽化に伴い施設整備が必要なケースが想定されます。
この施設整備実施前に正確な資金計画を作成できるかどうかで、認定こども園移行後の経営に大きな影響が出ます。
資金計画を作成する際の重要なポイントは、施設整備補助金・自己資金から逆算した借入必要額の算定です。
特にこの中で重要なのが、施設整備補助金です。
認定こども園移行と合わせて園舎建て替えを実施するときに活用できる補助金は、就学前教育・保育施設整備交付金です。この施設整備補助金は、自治体によって活用できるかどうか、活用できる場合の補助金額が大きく異なる場合が想定されます。
そのため既に移行した近隣園からの情報を元に資金計画を作成するのではなく、必ず事前協議の段階で、自治体に対して「そもそも補助金を活用することができるのか?」を確認をしましょう。
そして確認した補助金額を元に、パートナー設計士に現在の園舎の規模や新たに新設をする保育所機能を考慮した上での総工事費を算出し、それを元に自己資金、借入額がいくら必要なのかを検討する必要があります。
そしてこの借入先の選定に際しては、返済期間、利率を借入候補先毎にしっかりと把握し、運営後の収支シミュレーションに反映して資金面における安定的な経営を実現できるようにしましょう。また、近年では待機児童の減少に伴い、本補助金を活用することができないケースも散見されます。しかし、園舎の建て替えが控えている中、多額の借り入れが必要になるケースも少なくありません。適切な借入先・償還できる返済計画を専門家と一緒に作成してください。
給食費を適切に設定できず赤字運営に・・・
保育料(保護者負担額)の設定は、幼稚園が認定こども園に移行する際に、最も悩みやすいポイントの一つです。2019年10月以降幼児教育保育の無償化に伴い、満3歳児以降は月額保育料が無償化となりました。そのため、毎月保護者から頂戴する経費は無償化前後で減少した園が多いのではないでしょうか。認定こども園移行後も同様で、保護者から頂戴する月額保育料は徴収せず、上乗せ徴収と呼ばれる実費徴収・特定負担額のみ徴収する仕組みとなります。
当然給食費も頂戴することになりますが、特に注意しないといけないのは自園調理の場合です。自園調理の場合、調理員の採用から食材の仕入れ・調理まで完全に自園で行う「完全自園調理」と調理業務の一切を委託して行う「自園調理」の2種類があります。いずれにおいても注意しないといけないのは、本当にその給食費で給食にかかる経費を賄うことができるのか?という点です。特に、委託をする場合食材料費以外に管理経費として調理員等の人件費以外に料金を支払うケースが一般的です。その際、近隣園の給食費を参考に料金を設定するとほとんどの場合赤字になります。給食費として一般的に設定できるのは食材料費のみですがそれだけでは給食を作るのにかかる経費を全てまかなうことはできません。そのため施設維持費や施設管理費といった別の項目で給食設備維持にかかる経費として頂戴することが重要です。給食を実施する際にはこれまでの経費と比べていくら追加でかかるのかという点に注意して、給食費の設定をしてください。
必要職員数を満たせず、補助金額を減額されてしまった・・・
施設型給付費の構造上、園児数に対して必要教職員数が決定し教職員に対する人件費やその他必要経費が補助金として支給されるという構造になっています。
そのため、補助金を支給されるための最低要件である配置基準を満たせていないと補助金は減額されます。そうなると、もともと想定していた収入を実現することができず認定こども園経営に大きな影響を与えてしまいます。
施設型給付費には基本分に加えて加算分があります。この加算をうまく使うことによって収入を最大化することができ認定こども園経営が安定します。この加算を取得するためには教職員の配置が必要となり教職員採用が肝になります。
そのため収支シミュレーションを組む時には、現在の教職員数に対して追加で何人採用することで想定している収支シミュレーションの数値になるのかという点に気をつけて教職員の採用にあたっていきましょう。加算を取得するために必要な教職員の数等の計算は、こども家庭庁のホームページに要項が掲載されているため事前にしっかり目を通しておきましょう。
定員が充足しない・・・
定員充足率をどれだけ高くすることができるかという点が、認定こども園経営を安定させるためには非常に重要になります。
そのため、1号認定、2号認定に合わせた募集戦略を練ることが重要です。
―1号認定募集戦略について-
1号認定定員を満たす上での大きな問題となるのが、1号認定・2号認定の併願です。
1号認定入園は2号認定入園より入園確定の時期が一般的には早いです。
そのため、2号認定枠での入園を希望している保護者の方は、
入園確定時期が早い1号認定を併願で提出します。
その結果発生する問題が、1号認定枠入園のキャンセルです。
キャンセルが多くなると1号認定枠が充足せず、想定していた収入が実現しない事態が想定されます。
この事態を避けるためには、1号認定枠希望者をどれだけ集められかどうかが鍵となります。
そのためにも、早期から1号認定園児募集に着手し、
選ばれる園になるための計画と行動をすることが重要になります。
昨年度から試行的に始まっているこども誰でも通園制度をうまく使うことで早期に園を探している保護者と接点を持つことができ、入園してもらう確率が高くなります。現在実施されていない園は次年度以降ぜひ積極的に検討してみてください。
-2号認定募集戦略-
認定こども園の2号認定は、幼稚園における預かり保育無償化の対象となる新2号認定と同じ基準であることがほとんどです。しかし、預かり保育料の設定によっては認定こども園に移行後も1号認定として利用する方も多くいらっしゃいます。そのため週5日預かり保育を長時間利用される場合の預かり保育料の金額を無償化の1日あたりの上限額である450円以上になるように料金を設定することで、2号認定になるためのインセンティブを作ることができます。一方で、1号認定と2号認定で副食費の無償化における条件が異なる関係上、場合によっては2号認定に移った方が保育料が高くなるケースも考えられます。そのため、各家庭の状況を細かく確認し適切に声かけを行って2号認定が充足するように働きかけましょう。
また、2年目以降は満3歳児からの進級で充足するケースが多いです。一度満3歳で入園することで、利用調整を行い入園する必要がなく2号認定として在籍することができます。加えて円にとっても利用調整された方が入園することなく従来の募集活動に近い形で園児募集をすることができるため園にとっても大きなメリットがあります。ただ1号認定募集戦略でも書きましたが、満3歳児から2号認定に切り替わることによって、1号認定の人数が減少するためこの辺りのバランス感の調整が非常に重要になります。
移行後、業務負担が増大し残業代が増加、そして離職者も・・・
幼稚園が認定こども園に移行することによって、保育機能が付加されることになります。
そのため、既存職員の皆様には今までと異なった働き方・業務が求められます。
この結果起こる問題が、業務負担の増大です。
業務負担は、園の収支面にも特に影響を及ぼす可能性があります。
具体的には、業務負担が増大することによって、残業時間の増加を引き起こします。
その結果、残業代が増加し支出面に影響を及ぼします。
そしてこの残業時間の増加は長期的には職員離職に伴う採用コストの増加へと繋がることになります。
つまり、業務負担の増大は、園運営の根幹に関わる大きな問題を引き起こす可能性があります。
これらの事態を避けるためにも、認定こども園移行準備段階ではまず、
職員の皆様に対して、移行後の働き方のマインドセット研修の実施を行い、
移行後の働き方のギャップ、移行後の働き方を考える場を設ける必要があります。
移行後においては、随時職員の皆様に対して現在の働き方に対するヒアリングを行い、
園全体の働き方の可視化、働き方改革を行う必要があります。
このように、移行前・移行後それぞれの場面において認定こども園に対する働き方を考え、
そして改善する機会を園側で設け運営後の収支・運営体制の面において安定化を目指していくことが必要になります。
以上が認定こども園移行に際して発生する6つの問題とその対処方法になります。