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船井総合研究所 子育て支援部の児玉です。
「待機児童ゼロ時代」を迎え、保育業界は「淘汰の時代」へと明確に舵を切りました。帝国データバンクによれば、2024年の保育園の倒産・休廃業件数は過去最多の31件に達し、また、WAMの調査では全国の保育施設のおよそ4分の1が「赤字経営」であるという厳しい現実も明らかになっています。
この荒波の中で、2025年度から本格スタートした「経営情報の見える化」「処遇改善等加算の一本化」という2大制度改正に、理事長・園長先生はどのように向き合っていらっしゃるでしょうか。
これらの改正を、単なる「対応すべき事務作業」として場当たり的に処理してしまっては、この淘汰の時代を乗り越えることはできません。むしろ、これらを自法人の「人事戦略」を抜本的に見直す絶好の機会と捉え、職員の定着と育成を加速させる「武器」へと転換することが、今まさに求められています。
「経営情報の見える化」「処遇改善等加算の一本化」が突きつける、人事戦略の重要性
なぜ今、人事戦略がそれほどまでに重要なのでしょうか。
「経営情報の見える化」により、自園の給与水準やキャリアパスが、近隣の園と容易に比較される時代になりました。もし、職員が「うちの園の評価基準は曖昧だ」「将来のキャリアが見えない」と感じていれば、より魅力的な条件を提示する園へ流出してしまうリスクが格段に高まっています。
また、「処遇改善等加算の一本化」により、法人に与えられた裁量は大きくなりました。しかしそれは同時に、「なぜその職員に、その金額が配分されるのか」という客観的で公平な「根拠」を、全職員に説明する重い責任を負うことでもあります。場当たり的な配分は、職員間の不公平感を招き、真面目に働く職員の士気を著しく低下させる危険を孕んでいます。
つまり、職員が納得できる公平な評価基準と、成長を実感できるキャリアの道筋を「仕組み」として提示すること——すなわち「人事評価制度の再構築」が、待ったなしの経営課題となっているのです。
「守り」の土台としての、人事評価制度4つの構成要素
「評価制度なら既にある」という園でも、その多くが「処遇改善加算のため」だけに作られ、形骸化しているケースが散見されます。職員の成長やモチベーション向上に繋がっていない制度は、もはや「ない」のと同じです。
真に機能する人事評価制度は、法人の理念を実現し、組織を持続的に成長させるための「土台(守り)」です。私たちは、その土台を「等級」「賃金」「評価」「研修」の4つの制度で構築すべきだと考えています。
①等級制度
最大のポイントは、「管理職を目指したい職員」と「現場で貢献し続けたい職員」の役割を明確に分けることです。全員に一律のキャリアを求めるのではなく、それぞれの志向性に合った道筋と役割を等級として設定することで、双方が納得感を持って働ける環境が整います。
②賃金制度
「見える化」時代を勝ち抜くため、等級が上がることの明確なメリットを魅力的な給与条件として設定します。同時に、等級ごとに昇給の上限を設けることで、人件費の適正化と上位等級への挑戦意欲を両立させます。
③評価制度
一般職員の評価は、項目をシンプルに絞り込み 、「出勤率」「提出物提出率」といった誰もが客観的に判断できる定量項目を加えることが鍵です。これにより、評価者の主観によるブレを防ぎ、課題職員へも毅然とした是正を促すことが可能になります。
④研修制度
各等級で求められるスキルを習得するための「階層別研修」を設計し、等級制度と完全に連動させます。業務マニュアルを整備し 、いつでも学べる動画研修なども活用する ことで、属人的ではない「仕組み」としての育成体制が構築されます。
「選ばれる園」になるための、「攻め」の人事戦略
しかし、これら4つの制度(守り)を整備しただけでは、職員は辞めないかもしれませんが、職員が「この園で働き続けたい」と心から思う「選ばれる園」になることはできません。
土台(守り)を固めた上で、職員の「働きがい」や「承認欲求」といった内面的な動機付けを満たす「攻め」の施策が不可欠です。
例えば、以下のような取り組みが挙げられます。
①経営方針発表会
理事長自らの言葉で法人のビジョンを全職員に語りかけ、組織の一体感を醸成します。
②表彰制度(アワード)
給与や賞与といった金銭報酬だけでは評価しきれない「理念に沿った素晴らしい行動」を公式に称え、強力な「承認」のメッセージとします。
③幹部カンファレンス(園長塾)
管理職・候補生に対し、経営方針や課題を共有し、視座を現場レベルから経営レベルへと引き上げ、次世代リーダーとしての当事者意識を育みます。
④人事会議
管理職が集まり、部下一人ひとりの状況を相談・報告することで、評価者の「目」を鍛え、隠れた逸材を発掘する場とします。
まとめ:「待機児童ゼロ時代」を乗り越える次の一手とは
保育業界を取り巻く環境は、かつてないほど厳しさを増しています。この淘汰の時代を生き抜き、持続可能な経営を実現するためには、場当たり的な対応ではなく、法人の理念に基づいた戦略的な「人事」が不可欠です。
「守り」としての人事評価制度(等級・賃金・評価・研修)を再構築し、職員の安心と公平性を担保する。 その上で、「攻め」としてのエンゲージメント施策を実行し、職員の承認欲求と働きがいを引き出す。
この両輪を回すことこそが、職員が辞めず、育ち、地域から「選ばれる園」になるための唯一の道筋です。
「何から手をつければ良いかわからない」
「自園の制度が形骸化しており、根本から見直したい」
「管理者育成と課題職員の是正を、仕組みで解決したい」
このような課題意識をお持ちの理事長・園長先生のために、本コラムでご紹介した「人事評価制度の再構築」について、具体的な設計手法から運用の秘訣まで、その全てをお伝えするセミナーをご用意しました。
新年度目前の今こそ、貴園の未来を支える「仕組み」作りに着手する最後のチャンスです 。ぜひ、この機会をご活用ください。
「保育事業者のための人事評価制度 再構築セミナー」のご案内
本セミナーでは、最新の業界時流を踏まえ、なぜ今「人事評価制度」が不可欠なのか、そして職員の離職を防ぎ、成長を促す「等級・賃金・評価・研修」4制度の具体的な設計ポイントを徹底解説します。さらに、職員のエンゲージメントを高める「攻め」の施策についても、具体的な成功事例を多数ご紹介します。
<このようなお悩みを抱える経営者の皆様におすすめです>
・「経営情報の見える化」で、給与情報が公になることに不安を感じている
・「処遇改善等加算の一本化」に対応したが、戦略的な賃金制度の見直しまで着手できていない
・「優秀な職員」の離職に歯止めをかけ、「課題職員」の処遇にメスを入れたい
・キャリアパスが曖昧で、職員の成長意欲を高められていないと感じている
・評価制度はあるものの形骸化し、職員のモチベーション向上に繋がっていない
【開催概要】
日時:
2026年1月19日(月) 13:00~16:00
2026年1月29日(木) 13:00~16:00
2026年2月9日(月) 13:00~16:00
2026年2月26日(木) 13:00~16:00
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