処遇改善等加算の返還事例
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船井総合研究所 子育て支援部の小島です。
今回は、企業主導型保育事業を運営されている皆様にとって重要なテーマ、
「処遇改善等加算の良くある返還事例」についてお伝えいたします。
処遇改善等加算の重要性と返還リスク
企業主導型保育事業における処遇改善等加算は、保育人材の確保と質の向上に不可欠な財源です。保育業界における処遇改善等加算は、保育士の給与が低いことと人材不足という背景から保育に携わる人材の確保と資質向上、質の高い保育の安定供給、そして「長く働くことができる」職場構築を目的として進められてきた制度です。
この制度には処遇改善等加算Ⅰ、Ⅱ、Ⅲと複数種類があり、それぞれ要件や算定方法が異なります。特に、この加算は支給された全額を確実に職員の賃金に充当することが求められている助成金であるため、交付された加算額と実際に職員の賃金改善に充てられた額との間に差額が生じた場合、または加算の受給要件を満たしていない場合、その差額が「返還」の対象となります。
認可保育園や認定こども園では要件を満たしていない分を残額として翌年に持ち越せる場合がありますが、企業主導型保育事業では残額を発生させることができず年度報告・完了報告の際の処遇改善等加算実績報告にて「返還」する必要があるため、注意が必要です。
本コラムでは、発生しやすい返還事例をお伝えいたします。
なぜ返還が生じるのか?よくある事例から学ぶ教訓
園が処遇改善等加算を返還せざるを得なくなる背景には、この加算が使用用途が限られている補助金であるという特性が深く関わっています。つまり、交付された加算額が、定められた目的(主に職員の賃金改善)に計画通りに充てられなかった場合、その差額が返還対象となるのです。制度の要件やルールを誤解したり見落としたりすると、意図せずとも返還リスクに直面します。
・賃金改善額の未達
加算は職員の賃金改善を前提としていますが、年度末までに計画した賃金改善額を職員へすべて配分できず、未配分額が返還となるケースです。園児数変動による加算額の増減や、賃金改善の実績管理方法が原因となりえます。
・加算要件の誤解・見落とし
処遇改善等加算Ⅲでは、改善額の2/3以上を基本給または決まって毎月支払われる手当に充てる要件があります。これを見落としてしまい、賞与や一時金に偏って配分してしまうケースが発生します。
処遇改善等加算Ⅱでは、副主任保育士等や職務分野別リーダー等に対し、特定の研修分野の修了が義務付けられています。対象職員がこれらの研修要件を満たしていないまま加算を申請・受給していた場合、実績報告の際に返還を求められます。研修の修了数が段階的に定められているため、見落としやすいポイントです。
法定福利費等の計算漏れでは、賃金改善に伴い増加する法定福利費等の事業主負担分も賃金改善額に含めて計算することが可能です。これを適切に計算に含めないと、園の持ち出しが増えるか、返還対象となる場合があります。
これらの実例から、制度を深く理解し、適正な運用を徹底すること、そして常に実態と書類の整合性を保つことが、返還リスク回避の鍵となります。
まとめ
企業主導型保育事業を運営する皆様にとって、 処遇改善等加算は、保育の質向上と人材確保のための重要な柱です。しかし、これまでの解説でお伝えしたように、この加算は職員の賃金改善に確実に充当することが求められる助成金であり、厳格なルールに基づいた運用が求められます。
実際に多くの園が直面している返還事例は、現場で忙しいため制度への理解不足や運用体制の不備などが考えられます。
返還リスクを回避するために大切なこと
これまでの事例を踏まえると、返還リスクを回避し、加算を適切に活用するためには、以下の点が特に重要になります。
1.制度を正確に理解すること
処遇改善等加算には、種類ごとに細かな要件や算定方法が定められます。これらのルールを正確に把握することが、適正な運用を行う上での第一歩です。見落としがちなポイントも少なくないため、常に注意が必要です。
2.計画と実績を綿密に管理すること
加算は職員の賃金改善を目的としています。そのため、計画した賃金改善額が年度末までに確実に職員へ配分されているかを、日頃から細かく管理することが不可欠です。計画と実績の間に差異が生じないよう、定期的な確認が求められます。
3.専門的な視点を取り入れること
複雑な制度を完璧に理解し、運用し続けることは容易ではありません。外部の専門家からのアドバイスや、園内のチェック体制を強化するなど、複数の目で確認する仕組みを作ることも、リスクを低減するために有効な手段です。
最後に
処遇改善等加算は、保育士の皆様の処遇改善に繋がり、結果として質の高い保育の提供、ひいては子ども達の健やかな成長に寄与する大変意義深い制度です。返還という事態、園の経営に大きな打撃を与えるだけでなく、職員のモチベーション低下にも繋がりかねません。
このコラムが、皆様の園における処遇改善等加算の適切な運用の一助となれば幸いです。
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本日は企業主導型保育事業における処遇改善等加算の返還事例についてお伝えいたしました。
現在、処遇改善等加算を取得されている方も、これから取得予定の方も改めて最新の制度を学び、園での効果的な活用をいただけますと幸いです。
また、弊社では2025年9月に、企業主導型保育事業に特化した処遇改善等加算セミナーを開催いたします。
今回の内容に加えて、セミナーでしかお伝えできないより踏み込んだ実際の配分事例や、返還額なく、基準額以上の改善を行う秘訣などをお伝えさせていただきます。
本日のコラムを踏まえて、少しでもご関心のある方はぜひご参加いただけますと幸いです。