保育・教育の「人財力」を最大化する現場育成力

皆様
いつも保育園経営.com のコラムをご愛読いただきましてありがとうございます。
船井総合研究所 子育て支援部の菅野 瑛大(かんの あきひろ)です。

今回は、「保育の見える化と現場での保育者育成」というテーマで、整理をしていきます。

転換期を迎える保育業界と「人財」の新たな価値

今日の保育業界は、少子化の進行と施設の整備により、かつてない転換期を迎えています。地域によっては、単に「選ばれる園」であるだけでなく、「選ばれる法人」としての存在感が問われる時代へと変化しています。
このような環境下で、事業の持続的な成長を支える最も重要な基盤は「人財力」に他なりません。保育サービスの質は、現場で働く職員一人ひとりの質に直結するため、「保育園経営は『人財力』が全て」とまで言われる理由です。
これまでの人財マネジメントは「人のコントロール」という発想に偏りがちでしたが、これからは「マーケティング発想」への転換が求められます。これは、雇用側である法人と労働者である職員、双方のニーズとシーズを構造化し、相互理解と共感を深めながら共に価値を創造していく包括的な活動を指します。

「人財力」最大化の第一歩:経営と現場の「目線合わせ」

人財力を最大限に引き出すためには、まず組織全体で「目線合わせ」を徹底することが不可欠です。特に新入職員の「即組織人化」は、育成の第一歩となります。
1.「組織人」としてのマインドセット
多くの職員は自身の「職業」を「保育士」「看護師」といった職種名で認識しがちですが、その前に「会社員(株式会社系)、団体・法人職員(社福・学法等)、公務員(公立園)」といった「組織に所属する一員」であるという意識が重要です。自らが所属する組織があるからこそ、その資格や専門性を低リスクで活かし、様々な挑戦ができる環境があることを伝えることが、組織へのコミットメントを促します。

2.法人理念の「言語化」と「実装」
「A先生とB先生で言われることが違う…」といった現場の声は、法人や園の「あり方」や「やり方」が正しく伝わっていないサインです。

抽象的な法人理念や保育理念を、日々の保育活動に具体的に落とし込み、職員全員がその「目的・ねらい」を理解できるように「言語化」することが重要です。これは、日々の保育が法人理念の「実装(具現化)」であるという視点に他なりません。この「理念実装」の考え方は、学術研究で蓄積されたノウハウを実社会で活用する「社会実装」の概念を保育園経営に援用したものです。

3.「下限品質」と「上限品質」の明確化
職員育成において、「このくらいはできてほしい」「普通だったらこうだろう」といった曖昧な基準では、具体的な成長を促すことはできません。法人として「入職時に達成してほしい最低限のレベル」を「下限品質」として明確に定義し、さらに「法人にとって利益を生む理想的な水準」を「上限品質」として示すことが重要です。これは「できる/できない」という減点方式的な評価ではなく、職員がどこに向かって成長すべきかの道筋を示す「加点方式」の視点へと転換を促します。

「現場育成力」の深化:日々の業務を「学び」に変える

人財育成の中心は、やはり日々の業務を通じた「OJT(On the Job Training)」です。仕事に費やす時間が圧倒的に多いため、「結果的に身につく」という曖昧な認識ではなく、日々の業務自体を意図的・計画的な学びの場へとデザインすることが求められます。
OJTの効果的なサイクルは、
「Show(やって見せる)」「Tell(目的等を伝える・Q&A)」「Do(業務へ取り組む)」「Check(反省・改善・補足)」
の4つのステップで構成されます。特に「Tell」の段階で、単なる作業手順だけでなく、その業務の目的や理念との関連性を丁寧に伝えることが、職員の深い理解と自律的な行動を促します。
また、保育の現場ではルーティンワークが多くなりがちですが、この「決められたルーティン」に加え、「探索のルーティン」を意識的に創出することが重要です。これは、日々の業務の中で「なぜこうするのか」「もっと良くするにはどうすればいいか」といった問いを持ち、新たな発見や気づきを促す習慣を意味します。この「探索のルーティン」を組織的に支援することで、職員は変化に柔軟に対応し、自ら課題を発見・解決する能力を養うことができます。
さらに、「時間はお金に換算される」という経営的視点も重要です。無駄な書類探しや非効率な業務は、人件費として大きなコストロスに繋がります。これらの「時間の消費」を最小限に抑え、「人財育成」という「時間への投資」に振り向けることで、組織全体の生産性と人財価値を最大化できます。そのためには、書類やデータの棚卸しを行い、DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進し、紙媒体との重複をなくすなど、最適な業務フローを確立することが有効です。

育成を加速させる「仕組み」の設計と運用

計画的な人財育成には、人事評価制度を育成と連動させた「仕組み」の導入が不可欠です。評価制度は、単なる査定ツールではなく、職員一人ひとりの成長を支援する「コンパス」としての役割を担います。
1.「スキルマップ」による見える化
法人として求める人財像を具体的に「スキルマップ」として言語化し、知識、スキル、考え方、行動レベルを段階的に示すことが、職員の共通言語となります。これにより、職員は抽象的な「がんばれ」ではなく、具体的な目標を持って日々の業務に取り組めるようになります。ただし、スキルマップは保育業界に精通していなければ現場にフィットせず、活用が難しい場合があります。

2.評価の自動化とフィードバックの充実
自己評価や上長評価を紙やExcelではなくシステムで「自動化」することで、集計の手間を最小限に抑え、本来時間をかけるべき「フィードバック」や「目標設定」といった育成のコア業務に時間を充てることが可能になります。フィードバック面談では、数値データに基づきつつも、職員の自己肯定感を大切にし、長所を認め、今後の成長ステップを具体的に示すことが重要です。

3.PDCAサイクルの定着
評価結果を基に、職員が自身の現状を把握し、目標設定、計画、実行、評価、改善(PDCAサイクル)を自律的に回せる環境を整えることが、育成を加速させます。このサイクルを「自然と身につく」ように設計することで、課題発見能力と解決能力が養われ、他のスキルの習得スピードも向上します。

4.ベテラン職員へのマインドセット
新入職員の育成には、先輩職員の理解と協力が不可欠です。特にベテラン職員こそ、「保育士である前に組織人である」というマインドセットを改めて認識することが、組織全体の好循環を生み出す重要なポイントとなります。

人財力は「組織をうつす鏡」

保育業界は、今後も「質」と「量」の両面で人財の強化が求められる時代が続きます。中期経営計画を策定し、ブランディング戦略を立て、それを実行していくことが法人の生き残りに直結します。そして、その戦略の中心には常に「人財」が位置づけられます。
職員の評価は、法人自身がどこまで理想を実現できているかの指標となり、「法人を見る鏡」であると言えます。人財力の最大化と現場育成の強化は、「選ばれる法人づくり」の根幹であり、企業の成長と事業戦略の強化を可能にする、最も重要な投資なのです。経営と現場が一体となり、計画的な人財育成に取り組むことが、今後10年を生き抜くためのカギとなります。

【計算編】《令和7年》保育所等処遇改善一本化対策研修


<このような方にオススメ>
✓処遇改善等加算の実績報告や一本化後の対応にお困りの方
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✓処遇改善等加算を適切に申請することで職員の賃金改善に努めたい方

<ご参加の案内>
【東京会場】
 2025/07/16 (水)14:00~17:00
 2025/07/29 (火)14:00~17:00
【大阪会場】
 2025/07/14 (月)14:00~17:00
 2025/07/22 (火)14:00~17:00

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