マネジメントの効率化は「保育の見える化」をすればよい
- テーマ:
- 採用・育成
皆様
いつも保育園経営.com のコラムをご愛読いただきましてありがとうございます。
船井総合研究所 子育て支援部の菅野 瑛大(かんの あきひろ)です。
前回コラム「“保育士の即戦力化”に必要なのは技術よりも想い」の振り返り
前回のコラム(メールマガジン2024/6/28配信)で、職員の皆様に(法人・園として)正しい方向性で、仕事・業務を進めてもらうための考え方をお伝えしました。
ポイントは実行までのステップには【認知→あり方の理解→やり方の理解→行動】があることをお示ししました。
新入職員も既存職員も想いを実行してもらえるようになっていくような、Off-JTとOJTのリデザインの方向性を以下のように整理しました。
✓OJT①:日々の仕事や業務を通してどういった仕事があるか認知する機会
✓Off-JT:その仕事がどういうものか、どうしてほしいかを説明を受け頭で理解する機会
✓OJT②:具体的にどのように対応するかを身体で理解する機会
✓OJT③:理解した仕事や業務を実行する機会
今回は、この伝えるための中身をどのように構築していくかをお伝えしていきます。
この構築方法が、保育だけではなく仕事そのものの見える化につながっていきます。
下限品質の決定
仕事・業務を進めてもらう中で、皆様が「気になる」という部分は何でしょうか。
まずは、この部分を特定して解像度を上げていくことが重要です。
明確なゴールがなく、「やって/考えて」は指導や教育にはなりません。
コンサルティングの現場から、「気になる」には大きく二つのポイントがあることがルール化されてきました。
それが、一つ目に
下限品質に達していない仕事・業務が発生している場合です。
もう一つに、今あるものをよりよくしていこうと上限品質を上げる際の、方向性やアプローチが経営陣や管理職層が思っているものと現場が進めているものが合致しない場合です。
特に気になるのは、下限品質に達していない若しくは限りなく下限品質に近いレベルから引きあがってこないケースにある事例が多く見られます。
実は、その中間にある“安定”している状況では、「気になる」が発生しにくいです。
※一方でその領域が放置されることもあり、それによるリスクもありますが、
これについてはまた別の機会に論じたいと思います。
ターゲットを下限品質という言葉に絞ると、「気になる」がどういった表現に変わるでしょうか。
例えば、「このくらいはできてほしい」「このぐらいはできるだろう」「普通だったらこうだろう」といったようになると思います。
さらに解像度を上げるには、「このくらい」や「普通だったら」といったものが、どのような水準なのか、「できる」がどのようにできてほしいのか、「こうだ」はどういう状態にあってほしいのか、を言葉で説明していくことで具体的になっていきます。
深く考えを巡らせていくと、徐々にどこに向かっているかがわかりにくくなります。
そこで、下限品質をつくるうえでのポイントは「採用基準」にあります。
入職している職員は、全員が採用基準を満たしているから、メンバーとして力を発揮してもらえるように参画してもらっているはずです。
全員がクリアできるはずのハードルがあるにもかかわらず、それに達していないから「気になる」わけです。
何をどういった水準で具体的にどのような状態/行動をしてほしいかは、ある項目に対して、それができている人もしくは、入職後試用期間の間にはできるようになると考えられる水準、これが自法人・施設の「下限品質」になるのです。
成長を促すための上限品質の決定
次に決めていく必要がある項目は「上限品質」です。
上限品質はいわゆる保育の質の向上や仕事・業務効率化、品質アップにつながるものです。
常によりよくしていくものであり、終わりがないものでもあります。
だからこそ“なんでもあり”になってしまい、個々人のこだわりや価値観が反映されやすくなり、「私の〇〇」といった声が多くなってきます。
そうならないためにも、ある一定水準で「目指すべき目標」は法人が示す方が効果的なのです。
それでは、上限品質はどのように決めるかを考えていきます。
様々なアプローチはありますが、ここでオススメする方法は、「法人にとって利益を生む水準」は何かを設定基準にする方法です。
ここでいう“利益”は必ずしも金銭的なものだけではありません。
それを達成することで、保育の質をはじめとしたサービス品質の向上につながる、業務効率化や効果増大につながる、職員の採用・育成成長・定着につながるものをあげていくことがポイントです。
さらにこれは、下限品質で上げた項目に対して、その先の上限品質がどうか、という連動性を持たせることが重要です。
逆に言えば、下限品質は設定できるが上限品質を設定できないものは、その仕事・業務に対しての深堀が難しいものである、もっと言えば人によってその基準の差が生まれにくいものであるため、そこに注力する必要はありません。
人によってブレが発生しやすいものをコントロールしたほうが高い効果が見込めるため、上下限品質をセットで考えられるものをあげて検討していきます。
下限品質というマイナスをゼロにするという減点方式的視点から、ゴールが設定されていると、下限というのはあくまでもスタートラインで、そこからは加点方式の視点であるという意識に変わるため、運用するほうもそれを当てはめられる方も前向きに取り組みやすくなります。
上限品質を達成するためのアプローチ
最後に、上下限品質が設定されたら、“その間”をどのようにうめるか、を考える必要があります。
中間レベルを決めるメリットは、安定領域に入った層を引き上げきるためのフックになるという点が1つ。そして最も大切なメリットは、上限品質に行きつくまでの方法(ステップ)を明確にすることで、「個のあり方/やり方ではなく組織のあり方/やり方」でレベルアップしてもらうことができることです。
「どのように」やってほしい、なってほしい、あってほしい、の「どのように」が具体化されることで、職員に対してはマインドセットが正しくできます。
さらに、経営者の皆様はご自身の考えを表出化し共有できるため、その想いがダイレクトに伝わっていきます。
また、これは「言葉」だけではなく「文字」にすることで、その時々でブレが発生しないようにすることも非常に重要です。
現場に考えて行動してもらうことは必要ですが、それを実現できる環境設計ができるのは経営者の皆様以外にはいないのです。