賃金連動は“後”でいい!? 失敗しない評価制度運用の鉄則

いつも保育園・こども園経営.comのコラムをご愛読いただきましてありがとうございます。
船井総合研究所の菅野 瑛大(かんのあきひろ)です。

今回は、処遇改善等加算の一本化が本格化したのち、来年度から要件緩和期間が終えることですべき、
職員の能力評価と賃金連動について解説します。

「全部決まってから」が失敗の元

「評価制度を見直したいが、賃金規定や等級制度とどう連動させるか決まっていないので、まだ始められない」 「不公平感が出ないよう、完璧なシミュレーションをしてから導入したい」

コンサルティングの現場から、このような声を非常によく耳にします。
お気持ちは痛いほどわかります。職員の生活に関わる「お金」のことですから、慎重になるのは当然です。しかし、完璧を目指すがゆえに「情報収集」ばかりに時間を費やし、肝心のスタートが切れない法人様が後を絶ちません。

こうした傾向をルール化してくと、以下の一言に集約されていきます。

「賃金との連動を最初から完璧に決めようとするから、いつまでも運用が始められない」

ここ数年で、保育事業向け評価制度構築に関する方向性をお伝えしてきましたが、実際に導入に踏み切れているのは、1割程度です。これが示す未来は、保育者の受け入れ体制の差、そのあとの育成体制の差となり、保育の質の差が生まれていきやすい環境ができるということです。もっと言えば、人気園とそうではない園、つまり少子化の中でも持続可能な経営をしていく法人・園とそうでないケースが生まれるということでもあります。

評価制度と賃金制度(給与・賞与)をセットで一気に構築し、同時にスタートさせようとすると、制度設計の難易度が跳ね上がります。さらに、運用実績のない評価基準でいきなり給与が決まるとなれば、評価する側(園長・主任)もされる側(職員)も、過度なプレッシャーと不安を抱え、本来の目的である「育成」がおろそかになってしまいます。
その結果、現場からは不満がうまれたり、最悪の場合は大量離職につながるリスクすらあります。

成功する法人の鉄則は、「評価制度(成長支援)」と「賃金制度(処遇)」を切り離し、段階的に接続していくことです。まずは「お金」の話を切り離し、「職員の成長」に焦点を当てることで、制度導入のハードルは劇的に下がります。

「保育業界にあった」成長の物差しを作る

何から始めるべきか。 それは、一般的なビジネス用語や借り物の言葉ではなく、自園の言葉で語られたオリジナルの「能力評価(スキルマップ)」を作成することです 。

インターネット上に落ちている一般的な評価シートであるスキルマップや、他業種のテンプレートをそのまま使ってもうまくいきません。なぜなら、そこには「皆様の園が大切にしている保育の想い」が込められていないからです 。
具体的には、「法人が求める人財像」や「自園の保育のこだわり」を棚卸しし、以下のような**具体的な成長ステップ(Lv1~Lv5)として整理します 。

Lv.1(入職基準): 明るく元気な挨拶ができる、理念を知っているなど、社会人・法人職員としての基礎がある状態
Lv.2(新人・若手): 経験が浅くても、手順通りに業務が遂行できる状態
Lv.3(中堅・主力): 園の主力として、自立して保育・業務が回せ、後輩の手本となれる状態
Lv.4(リーダー): 後輩指導や、保護者・園児へのより深い支援ができ、役職者層として求められる状態
Lv.5(管理者・幹部): 法人の利益や全体最適を考え、組織に貢献できる状態

このように、「何ができれば次のステップなのか」を可視化することで、職員は迷うことなく成長を目指せるようになります。「できないことを探す(減点法)」のではなく、「次のステップへ進むための道筋を示す(加点法)」ツールを作ることが重要です 。

「慣らし運転」だが「必須」である理由

スキルマップができたら、まずは「評価(現状確認)→面談・目標設定→実行→再評価」というPDCAサイクルを回すことに集中してください 。

これを私は「賃金連動前の慣らし運転」と表現していますが、実は「やらなくてもいい」わけではありません。むしろ、経営上「必須」です。

なぜなら、このプロセスを回すこと自体が、処遇改善等加算の分配要件で求められている「昇給・キャリアパスの仕組み(能力評価の実施)」を満たすことになるからです。
最初から基本給と機械的に連動させなくとも、まずは「この評価結果を参考に、処遇改善等加算(一時金・賞与等)を分配する」という形をとれば、制度としての整合性は十分に保てます 。

むしろ、この「慣らし」期間のうちに、法人として適切な評価データの基礎を蓄積しておくことが、将来的に基本給と連動させる際のリスクヘッジにも繋がるのです。評価者による甘辛(評価のバラつき)を調整し、納得感のある運用ができるようになってから賃金の話をしても、決して遅くはありません。

先行法人が実感した「劇的」な効果

実際に、賃金連動を焦らず、まずはこの「成長支援」に特化した評価制度を先行的に取り組んでいる法人様からは、以下のような嬉しい効果が報告されています。

✓ 組織人であることの自覚が芽生えた: 「ただの保育士」ではなく「この法人の職員」という意識が変わった。
✓ 法人が求めているもの(期待)が明確になった: 漠然としていた「頑張り」の方向性が定まり、自園の価値が伝わるようになった。
✓ 「○○先生の保育」から「法人・園の保育」へ: 個人の力量頼みだった保育が、組織としての保育へと視座が上がった。
✓ 保育が楽しくなった: 保育観の違いによるすれ違いが減り、職員同士の連携がスムーズになった。
✓ 指導がしやすくなった: 評価表という「共通言語」があるため、上司が部下への指導・アドバイスが具体的になった。
✓ 次期リーダー候補の輩出: 人財育成が促進され、自然と次のリーダーが育つ土壌ができた 。

評価の賃金への落とし込みは自然とつながる

「しっかり情報を収集しきってからやります」と足踏みをしている時間はもったいないです。 制度が完璧でなくとも、まずは自園の言葉で語られた「成長の物差し(能力評価)」を作り、運用を始めてみてください。

職員が自分の成長ステップを理解し、楽しく前向きに働ける環境(=良い評価制度)ができれば、保育の質が上がり、選ばれる園になり、経営が安定します 。 その結果として、原資が確保され、豊かな賃金制度が実現できるのです。

「評価」と「賃金」の順序を間違えず、まずは目の前の職員の「成長」に向き合うことから始めていきましょう。

新時代保育園経営研究会




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▼場所
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